ミヒャエル・エンデ研究?のための参考文献

最初に断っておきますが、これはエンデの作品を理解するためではなく、エンデの考え方を理解するための参考文献を僕の独断と偏見で選んだものです。僕が持っているもの、読んだものもあれば、もっていないもの、読んだことのないものも入ってますw要するに、誰得なわけですがwwちなみに、当然ですがエンデ自身の対談などは除外します。

M・エンデの読んだ本
エンデが影響を受けた作品の全部、または一部を抜き出したアンソロジー。小説や戯曲などの文学作品からシュタイナーなどの哲学作品まで幅広いです。手引きとして使えます。なお、未邦訳の作品や入手困難な作品もあります。とりわけ重要なものについては、別に言及します。収録作品は以下のとおり。荘子胡蝶の夢ルドルフ・シュタイナー自由の哲学』フリードリヒ・シラー『人類の美的教育のための書簡』ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ『メールヒェン』ピーター・S・ビーグル『最後のユニコーン』ヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエ『クリティアン・ローゼンクロイツ化学の結婚』グリム兄弟『ねずの木の話』ゴットホルト・エフライム・レッシング『人類の教育』ノヴァーリスキリスト教の世界、あるいはヨーロッパ』ハインリヒ・フォン・クライスト『マリオネット芝居について』グスタフ・マイリンクヒキガエルの呪い』オイゲン・ヘリゲル『弓術と禅』グスタフ・ルネ・ホッケ『迷宮としての世界』パブロ・ピカソ『インタビュー』ソーントン・ワイルダーサン・ルイス・レイ橋』カーレン・ブリクセン(イサク・ディーネセン)『苦しみ畑』F・M・ドストエフスキーカラマーゾフの兄弟』ガブリエル・ガルシア・マルケス百年の孤独ライナー・マリア・リルケ『マルテの手記』ルイーゼ・リンザー『建築現場』フランツ・カフカ『断片』クリストフ・メッケル『ウムブラマウトの国では』J・R・R・トールキン『夢の劇』J・L・ボルヘス『エブリシング・アンド・ナッシング』
エンデを旅する
エンデの友人であり、エンデの翻訳も多数ある田村都志夫氏によるエンデ解説本。日本人によるエンデ解説本は、これがほとんど唯一の本だと言ってもいいです(新書でも一冊講談社現代新書からでていますが)。一応、多角的にエンデに照明を当てていますが、とりわけエンデの秘教的側面に対する記述(ノヴァーリスカバラ・シュタイナーなど)は弱いです、一般向けのためもあるのかも知れません。ですが、グスタフ・ルネ・ホッケとの関係や、父母との関係の記述は一読の価値があると思います。
ミヒャエル・エンデ 物語の始まり
エンデの友人ペーター・ボカリウスによる伝記。主に、エンデの幼少期から青年期で、ジム・ボタンを書く頃までのエンデの伝記になっています。必読です。
エンデの遺言
言わずとしれた、エンデの経済関係の思想をまとめた本。オルタナティブ経済の本としても面白いです。しかし、これは何度も言及していますが、私見では少しゲゼルの貨幣理論などに偏っているきらいがあります。エンデが対談等で常に精神の問題・芸術の問題・自由の問題とセットで経済の問題を語っていたことに留意すべきだと思います。
モモを読む
エンデ研究本というわけではないですが、エンデファンにとってのシュタイナー思想の入門書としては悪くないと思います。必読というほどではないです。

とりあえず、エンデに直接関係する日本語で読める基礎文献はこんなところです。他にも『モモも禅を語る』とか関係文献はありますが、それほど重要性は高くないと思います。以上に挙げたものでとりわけ重要なのは、『読本』と伝記だと思います。では、エンデの思想的背景とも言うべきところへ迫るための文献に移りたいと思います。中には、読本収録のものと重なります。

自由の哲学
シュタイナーの哲学的主著。読本にも収められています。エンデが初めて読んだシュタイナーの著作はこの『自由の哲学』と『歴史兆候学』(未邦訳)だと言われています。アントロポゾフィーの入門書であると同時に、エンデの自由観などにも決定的な影響を与えているといえます。シュタイナー関連書は全て必読ですが、邦訳のある本としては、本書と『現代と未来を生きるのに必要な社会問題の核心』及び『社会の未来』(ともに三分節論の基本書)が重要です。本書に入る前の手引きとしては、高橋巌先生の『シュタイナー哲学入門』なども参考になると思います。エンデは長年シュタイナーを研究し、全集を読破したらしいので、エンデと同じレベルで理解するのは至難とも言えますが、エンデの思想的背景を理解するためには必須です。
人類の美的教育に関する書簡
シラー美学のもっとも重要な著作です。ロマン派の美学などへの影響も見逃せません。とりわけ、シラーがここで遊戯衝動について述べていることは、エンデのSpielの考え方を理解するうえで、非常に重要だと思います。
キリスト教世界、あるいはヨーロッパ
ノヴァーリスの宗教論。読本に所収されています。この小論以外にもノヴァーリスは非常に重要です。ノヴァーリスの全ての著作が必読と言えるでしょう。とりわけ、ポエジーを人間の普遍原理におくロマン派的な観念論は、エンデの芸術思想との関連を考える時に重要だと思います。エンデ自身、ノヴァーリスを自分の精神的父として挙げています。
誘惑者の日記
エンデは読本の前書きで、バランスを考えて入れられなかったものもある、例えばニーチェキルケゴールが欠けている、ということを言っています。おそらく、エンデはキルケゴールの『あれか・これか』の一編である『誘惑者の日記』を念頭に置いていたと思います。エンデが美的な原理を倫理的な領域に持ち込んではいけない、ということを語るときに、しばしばこの本を引用します。
悲劇について
カール・ヤスパースの著作。エンデが悲劇について書かれたもので、一番よい本だと言及しています。ヤスパースは本書で、悲劇を観る行為は、いわば限界状況をヴァーチャルに体験することで、実存的飛躍を起こすのだ、といったことを言っています。これは、エンデの芸術観と対比したすると、とても面白い話だと思います。
迷宮としての世界
本書と『文学のマニエリスム』の二つのホッケの著作は、エンデに大きな影響を与えました。エンデはイタリアに住んでいた頃、ご近所になったホッケのところへ挨拶へいき、自分がどれほどホッケの著作に影響を受けたかを伝えたそうです。ホッケの作品によって、ファンタジー文学がどれだけ芸術としての正当性があるのか、自分の仕事が間違っていなかったことを確信した、とエンデ自身が述懐しています。
ツァラトゥストラはこう言った
エンデは高校生の頃、ツァラトゥストラを読みふけったそうです。おそらく、読本に収録するとしたら、ツァラトゥストラだったでしょう。しかし、エンデには思想的にはニーチェの影響はあまり見られません。しかし、ニーチェのZweisiedlerという言葉を使ったり、東京公演「永遠に幼きもの」でもニーチェの言葉を引用しています。また、三段の変化の話などは、エンデに近いと思います。
道徳経(老子
エンデはしばしば老子に言及します。エンデの東洋神秘思想は老荘思想や禅がメインだと考えていいと思います。その意味で、老子荘子は特に読んでおいて損はないと思います。
弓術と禅
ドイツの禅関係の基礎文献らしいヘリゲルの『弓術と禅』が読本に収められていますが、道元禅師の『正法眼蔵』を引用していることもあるので、かなり深く禅思想を研究していた可能性は高いです。禅については、エンデは度々公案を引用したりしているので、本書に限らず禅思想全体を読むべきでしょう。
人類の教育
読本にも入っています。啓蒙主義者レッシングによる転生論。キリスト教圏においては、転生論は一種のタブーですが、異端派の中には転生論が存在しました。しかし、レッシングはそういった伝統とは別のところから転生論を取り出しているのかもしれません。レッシングの転生論に特徴的なのは、仏教のように回帰的なのではなく、螺旋的に上昇する転生論を扱っている点で、これはシュタイナーと共通しています。
自由地と自由貨幣による自然的経済秩序
ゲゼルの主著の一つ。僕は不勉強なため未読です。ゲゼルの貨幣理論がエンデに与えた影響は大きいので、ゲゼルの原典にあたっておくのは、エンデの経済思想に興味のある人にはとりわけて重要だと思います。経済思想関連の参考文献は『エンデの遺言』からも辿れます。
Finite and Infinite Games
邦訳文献なし。James P.Carseというアメリカの宗教学者の本です。エンデが「遊戯」について非常によく書かれた本として『ものがたりの余白』で紹介しています(そこでは『有限な遊びと無限な遊び』と訳されています)。独訳があるので、エンデはおそらくそちらで読んだと思います。非常に掴みづらいエンデのSpielの思想を理解するためにも、非常に重要な文献です。また、ゲームという意味では、ウィトゲンシュタイン言語ゲームも参考になるかもしれませんが、完全に重なるわけではありません。言語ゲームについては、特に『哲学探究』参照のこと。
Friedlich Weinreb
著作名ではなく、作者です。一切邦訳がなく、僕自身まだ一度も著作にふれたことがありません。エンデが非常に集中的に取り組んだカバリストだそうです。とりわけ、カバラの伝統から見た言語学と聖書学を研究していたらしく、エンデ自身は初めて聖書の記述に納得がいったと言っています。また、私見ではエンデの言語観(これも非常に重要です)はフリードリヒ・ヴァインレープの思想に強い影響を受けているのではないかと推測しています。主著は例えば『言語における創造』『生命の文字』『ユダヤ秘教における宇宙論』などです。(ドイツウィキペディアのヴァインレープの項目を参照)

大まかなところでは以上です。他にも神秘思想関係は有名どころは殆どエンデは押さえていると考えていいです。例えば、ブラヴァツキーやエリファス・レヴィなど他多数。しかし、もっとも重要と思われるのはシュタイナーとヴァインレープとロマン派、とりわけノヴァーリスだと思います。特に、エンデの考え方の中には通奏低音のようにシュタイナーのアントロポゾフィーが流れています。一方で、芸術思想はシラー美学やロマン派の影響が強く見られます。このあたりを基軸と考えて問題ないはずです。